研究グループ

腫瘍生化学研究室

九州大学耳鼻咽喉・頭頸部外科では、悪性腫瘍(がん)をはじめとした様々な腫瘍性疾患に対して、頭頸部がん専門医というエキスパートが対応することで、エビデンスのある標準治療から、最先端で試験的な治療まで、幅広い治療を提供しています。

頭頸部癌とは?

頭頸部癌とは脳と眼球を除いた首から上の癌、つまり顔面から頸部にかけて生じる癌のことです。具体的には外耳・中耳癌、口唇・口腔癌、上咽頭癌、中咽頭癌、下咽頭癌、喉頭癌、鼻・副鼻腔癌、甲状腺癌、唾液腺癌などで、脳腫瘍や眼窩腫瘍は含まれません。全癌の5-6%にあたり、頻度が多いものとしては口腔癌(舌癌)、喉頭癌、下咽頭癌、甲状腺癌が挙げられます。発生部位によりその症状や治療法は異なります。

頭頸部癌の特徴は?

頭頸部癌の発生部位は、摂食、咀嚼、嚥下、発声などの日常生活に重要な機能に関わる口腔、咽頭、喉頭や上顎、顔面、頸部などの整容に関わる部位であることから、腫瘍によってあるいはその治療のために機能や整容が損なわれることがあります。また頭頸部領域は聴覚、平衡覚、嗅覚、味覚などの感覚器を含みます。このため、治療後のQOL(Quality of Life: 生活の質)に配慮した治療が必要です。

頭頸部癌の治療は?

癌の制御はもちろんですが同時に、頭頸部領域の重要な感覚や機能の温存と整容面への配慮をいかに行うかも重要なポイントになります。このため、放射線科医、腫瘍内科医、形成外科医、脳外科医、病理医などの複数の専門領域の医師との連携だけではなく、看護師、言語聴覚士、薬剤師、栄養士、などの多くの職種で、治療を行うことが必要となります。

近年は、早期がんに対しては、皮膚切開することなく内視鏡下で経口的に切除を行うことが多くなりました(当科では年間50-60例を施行しています)。当科では2021年よりロボット支援下手術(da Vinci手術)も行っています。この手術は、ロボット手術術者認定証を有する術者のみが行えるもので、当科でも資格を有する術者が手術を行っています。

進行がんに対しては、再建を必要とする機能が低下する手術が基本となります(当科では年間50-60例を施行しています)。ただし、形成外科や食道外科や脳外科と合同で行うことで、より機能障害が少なく、より合併症の少ない手術が可能となっています。

放射線治療が適応になる場合、放射線科と合同で治療を行います。当院では、腫瘍の形に合わせて放射線をあてる、強度変調放射線治療(IMRT)が行われています。IMRTは従来の放射線治療と比べて、より腫瘍に放射線を集中させ、周囲の正常組織への副作用を減らした放射線治療です。なお、重粒子線治療や中性子線療法が適応となる場合は、それぞれの施設と連携をとって対応しています。

また、当科では光免疫療法も可能です。光免疫療法を行うには、専門の資格が必要ですが、当科では資格を有する医師によって、安全に治療が提供できます。

再発治療としては、薬物療法が中心となりますが、当科では、以前からある殺細胞性抗癌剤だけではなく、分子標的薬剤(Cetuximab)や免疫チェックポイント阻害剤(Nivolumab,Pembrolizumab)などの治療が提供可能です。

研究内容は?

当科では、分子生物学・免疫生化学的な手法を用いて頭頸部がん治療に関する様々な基礎研究および臨床研究を行っています。実臨床にすぐに役立つ研究としては、頭頸部扁平上皮癌および頭頸部非扁平上皮癌患者(主に唾液腺癌)に対する免疫チェックポイント阻害剤や、EGFR 阻害薬の臨床効果に関する検討を行っています。また、頭頸部悪性腫瘍における循環腫瘍 DNA を用いた再発モニタリングに関する研究や、頭頸部腫瘍に対する網羅的ゲノム解析およびそのデータベースの構築など、今後早期に臨床応用が期待できる研究も進行中です。これ以外に頭頸部癌におけるHPV 関連癌同定方法の確立に向けた、多施設共同研究も進行中です。